1日1万5,000円ぐらいの日当を稼ぎ、「宵越しの銭は持たない」とばかり、勢い良く賃金を使っていた労働者が減っている。同時に、まちの商店街・飲食店も元気をなくしている。
あいりん地区を含む西成区は、危機に直面している。あいりん地区は、西成区全体からすれば、歩いて回れるぐらいの一区画にすぎない。そこを除けば西成区には、閑静な住宅街もあり、昭和の風情が残るアーケード商店街もある。しかしながら、悪いイメージを嫌い、同区で育った若者たちは次々に離れていっている。まちの健全化が喫緊の課題となっているのだ。
西成区選出で、現在、大阪市議会議長を務めている辻淳子大阪市議(大阪維新、3期)は、橋下大阪市長のもと、同地区の健全化を進め、「子どもたちが住めるまち」を目指す『西成特区構想』を推し進めている。
同構想は、まず、感染拡大が問題となっている結核の対策に、1億9,000万円を投じて検診・治療などを無料にする施策を実施。そして、"学習塾や習い事のためにのみ使える月1万円分のクーポン券を発行する政策「教育バウチャー」を導入していく。
「物価が安いことで集まっている貧困層には、母子家庭が多いのです。次世代への貧困の連鎖を断ち切るためにも、教育への支援が必要です」(辻氏)。
このバウチャー制度は、橋下氏が自身の「行政哲学」としている。ツイッターでは「供給サイドがある程度熟した『成熟国家』においては、バウチャーが効いてくる。バウチャーにしないと既得権供給団体が腐ったままで日本の成長は停滞する」と発言しており、西成区で成功すれば、教育のみならず、保育・公営住宅・芸術文化といった分野へも導入していく考えだ。
辻氏はもともと、自民党市議を11期務めた父から後を受け継いだ「世襲議員」であった。市民目線で、西成区および借金がふくらむ大阪市政全体への危機感を募らせたが、市議会、市職員は動かない。そこへ改革の旗手として類稀な実行力を持つ橋下氏が現れた。そして、政治生命をかけて、まだ少数派であった大阪維新に加わった(大阪市議では2人目に自民党を離脱)。
橋下氏が教育特区として健全化に力を入れる西成区は、"大阪の危機"の象徴と言える。だがその背景にある高齢化や貧困層の増加は、日本全体に共通する問題でもある。他の都市圏にとっても、あいりん地区の状況は決して対岸の火事ではない。
少子高齢化社会に巣食う病への投薬を、我が都市、我が町に置き換えてみる必要もあるのかもしれない。
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